東京地方裁判所 平成9年(ワ)16672号 判決
原告
甲野太郎(仮名)(X1)
同
乙山二郎(仮名)(X2)
右両名訴訟代理人弁護士
梅澤幸二郎
同
鈴木一徳
被告
東京都(Y)
右代表者知事
青島幸男
右指定代理人
松下博之
同
石澤泰彦
同
鎌田信一
同
島田恭一郎
被告
国
右代表者法務大臣
中村正三郎
右指定代理人
加藤裕
同
加藤準二
事実及び理由
第四 争点に対する判断
一 争点1について
1 本件令状請求、ないし3に至る経緯
〔証拠略〕からすれば、次の事実が認められる。
(一) 小松川署員は、平成八年六月下旬ころ、オウム真理教のいわゆる亀戸道場の責任者である丙川花子(以下「丙川」という。)から、同人の駐車違反の理由について事情を聴取した際、近くのアパートに行っていたという供述を得た。
当時、A〔編注、殺人未遂被疑事件の被疑者として特別指名手配されていた〕の発見検挙に向け捜査を継続していた小松川署は、丙川が駐車違反をした現場付近にオウム真理教信者が集まる場所があるのではないかと考え、聞き込み捜査をした結果、小林が原告乙山が賃借人であるニーナコーポに出入りしていることが判明した。
さらにその後の捜査の結果、原告乙山はオウム真理教の信者であり、オウム真理教の組織である科学技術省という名称の機関(以下、単に「科学技術省」という。)に属していたこと、平成八年六月当時、パレス双葉に居住していることが判明した。
(二)(1) そして、小松川署員は、平成八年七月初旬ころから同年九月中旬ころまでの約七〇日間、ニーナコーポの視察をし(以下「ニーナコーポヘの視察」という。)、同室に原告乙山を含めて複数のオウム真理教の信者が出入りしていることを確認した。
(2) 小松川署員は、ニーナコーポヘの視察を継続していた同年七月二四日午後八時二〇分ころ、Aに似た人物がニーナコーポに入室し、約一時間して退室したことを視認し、同月三〇日午後零時四〇分ころ、再度右人物がニーナコーポに入室し、約一時間して退室したことを視認した。
そこで、小松川署員は、同月三〇日、Aに似た人物が退室した際、同人を尾行したが、JR新小岩駅内において同人を見失った。なお、同人には、移動中に周辺を警戒するなどの行動が認められた。
(3) 中野警部は、その後、右Aに似た人物を尾行したAの顔を知る小松川署員から、その身長、年齢、顔形及び右尾行を振り切るまでの行動からして、同人はAにほぼ間違いがない旨の報告を受けた。
また、小松川署は、その後、Aの過去の勤務地の同僚らに対し、右(3)の際に撮影したAに似た人物の写真を見せ、同人がAかどうか聞き取り捜査を行ったところ、断言はできないものの右写真に写っている人物がAに良く似ているとの供述を得た。
(4) 小松川署員は、平成八年九月中旬ころ、ニーナコーポから荷物が運び出され、右荷物を積んだ軽貨物自動車が同所から走り去るところを視認したので、右軽貨物自動車を尾行したが、埼玉県戸田市付近において見失った。
その後、ニーナコーポの賃貸借契約が解除されたことからも小松川署員は、その引っ越し先を探して右軽貨物自動車を見失った埼玉県戸田市及び同大宮市内の不動産業者に対して聞き取り捜査を実施したところ、原告乙山が平成八年八月一二日付けで賃借している乙山居室を発見した。
(三) そこで、小松川署員は、平成八年一一月初旬ころから、乙山居室の視察を始めたところ、乙山居室に科学技術省に所属していた四名のオウム真理教信者が原告乙山とともに居住しているものと認めた。
(四) そして、中野警部は、以上の事実と、Aが科学技術省に所属しており、当時オウム真理教から支援を受けて逃亡していたという情報が存したことを踏まえて、原告乙山に本件被疑事件の嫌疑があり、乙山居室に、本件被疑事件の動機、目的、背後関係及び共犯関係等に関する証拠物があると判断して、本件令状請求1に及んだ。
(五) その後に行われた本件捜索差押1において、小松川署員は、乙山居室にいたオウム真理教信者であるBからメモ用紙を押収したところ、そこには、「Eガティン」と記載され、その横に電話番号が記載されていた。
さらにその後の捜査により、右電話番号がC居室のものであり、その電話回線の名義人は原告乙山であったこと、Bは科学技術省に属していた者であること、C居室の賃借人はCであり、同人もオウム真理教信者であったこと、C居室にはC以外の科学技術省に所属していたオウム真理教信者が転入届を出し入居していることになっていたこと、「Eガティン」とは、原告甲野を指していることがそれぞれ判明した。
(六) そこで、中野警部は、右(一)ないし(三)及び(五)の各事実によって、C居室について、原告乙山が関係する居室であり、本件被疑事件に関する証拠物が存在しているものと判断して本件令状請求2を行うとともに、Aの出入りを確認するべく、本件令状請求3を行った。
2 本件令状請求1について
捜査官が、裁判官に対し、捜索差押許可状を請求するためには、被疑者が罪を犯したと思料され(刑事訴訟法規則一五六条一項)、かつ、犯罪の捜査をするについて捜索差押を実施する必要があること(刑事訴訟法二一八条一項)が必要であるところ、右の被疑者が罪を犯したと思料されるとの、いわゆる嫌疑の程度については、捜査の迅速性、密行性からして、客観的に犯罪の嫌疑が一応存在することを根拠付けるものであれば足りると解される。そこで、当該令状の請求時において通常要求される捜査によって収集した資料によれば、捜査官が、捜索差押許可状を請求する際に、右の資料から前記の各要件が満たされていると判断したことに合理性が認められる場合には、当該令状請求にこの点の違法はないというべきである。
本件では、前記一に認定した事実、とりわけ、乙山居室には、Aを面割できる小松川署員がAに似ていると判断した人物が二度も出入りし、それぞれ一時間ほど滞在したこと、また、同人がA本人かどうかの裏付け捜査として行われた同人の過去の勤務先の同僚に対する聞き取り捜査においても、肯定的な供述が得られたこと、原告乙山は、ニーナコーポの賃借人として同所の利用確保に重要な役割を果たしており、同原告自身も実際にニーナコーポに出入りしていたこと、乙山居室には、オウム真理教信者が複数人出入りしていたところ、中野警部は、オウム真理教信者らが組織的に信者らの逃亡を援助している事例が存在するとの情報を得ていたことなどからして、本件令状請求1を行った時点において、原告乙山には、本件令状請求1に必要とされる程度の犯罪の嫌疑が存在し、かつ、本件被疑事件の背景事情を含めた本件被疑事実の真相を解明するためには捜索差押をする必要性があると判断することには合理性が存在すると認められる。
したがって、中野警部が本件令状請求1を行ったことに違法があるとする原告乙山の主張は認められない。
3 本件令状請求2について
本件令状請求2は、被疑者以外の第三者の住居を捜索場所として請求されたものであり、このような捜索差押許可状は、先の被疑者の嫌疑の存在及び捜査の必要性が認められることの他に、捜索場所に差し押さえるべき物の存在を認めるに足りる状況が存することが必要であり(刑事訴訟法二二二条一項、一〇二条二項、同規則一五六条三項)、右の差し押さえるべき物の存在を認めるに足りる状況があるとは、捜査の迅速性、密行性に照らして、証拠物の存在の蓋然性があることを意味すると解される。そこで、通常要求される捜査によって収集した資料によれば、捜査官が、当該令状請求する際に、右資料によって、被疑者の嫌疑の存在及び捜査の必要性に加えて、当該捜索場所に差し押さえるべき物が存在する蓋然性があると判断したことに合理性が認められる場合には、当該令状請求にこの点の違法はないというべきである。
本件では、本件令状請求2に際して、原告乙山には、捜索差押をなし得る程度の本件被疑事件の嫌疑が存在し、その背景事情を含めて本件被疑事実の真相を解明するために捜索差押をする必要性があるとの中野警部の判断については、右2で判断した本件令状請求1の場合と全く同様の理由から、合理性があるというべきである。
そして、前記一に認定した事実、とりわけ、C居室に実際に居住していたオウム真理教信者は、A及び原告乙山と同じ科学技術省に属していたこと、本件捜索差押1の際、乙山居室にいたBが持っていたメモにC居室が記載されていたこと、右電話番号の回線は、原告乙山名義のもので、かつ、電話番号が原告甲野の連絡先となっていたことなどを総合すると、本件令状請求2がされた時点において、C居室に本件被疑事件について差し押さえるべき物が存在する蓋然性があると判断したことには、合理性があるというべきである。
したがって、中野警部が本件令状請求2を行ったことに違法があるとする原告甲野の主張は認められない。
4 本件令状請求3について
捜査官が裁判官に対し、検証許可状を請求するためには、本件令状請求1について判示したところと同様、被疑者の嫌疑が存在し(刑事訴訟法規則一五六条一項)、かつ、捜査の必要性が認められること(刑事訴訟法二一八条一項前文)が必要であるとされており、右被疑者の嫌疑の程度は、客観的に犯罪の嫌疑が一応存在することを根拠付けるものであれば足りると解される。
そこで、通常要求される捜査によって収集した資料によれば、捜査官が、検証許可状の請求をするに際し、右資料に基づいて、前記の各要件が満たされていると判断したことに合理性が認められる場合には、当該令状請求にこの点の違法はないというべきである。
本件では、本件令状請求3に際して、中野警部が、原告乙山に捜索差押をなし得る程度の本件被疑事件の嫌疑が存在するとの判断したことは、前記1で判断したと同様の理由から、合理性があったというべきであり、C居室における検証の必要性が存するとの中野警部の判断についても、前記一に認定した事実によれば、右2に述べたのと同様の理由から、合理性があるというべきである。
したがって、中野警部が本件令状請求3を行ったことに違法があるとする原告甲野の主張は認められない。
5 なお、必ずしも明確ではないが、原告らは、別紙二記載の本件令状請求1及び2の差し押さえるべき物の記載中の「電子手帳」「外部記憶媒体」「周辺機器(通信機器及び各種ケーブルを含む。)」「取扱説明書等の印刷物及びメモ」は、本件被疑事実と関連性がなく、これらをも列挙している本件令状請求1及び2は違法であるなどと主張するようである。
しかし、別紙二記載の差し押さえるべき物は、「組織的犯行であることを明らかにするために必要な」物に限定されており、また、右の「電子手帳」「外部記憶媒体」等の原告主張にかかる物が本件被疑事実に関連性を有しないとも認めることはできないので、右主張は採用できない。
二 争点2について
1(一)本件捜索差押1の状況
〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
(1) 中野警部及び小松川署員一八名は、平成八年一一月一四日午前六時三〇分ころ、警察車両とは識別できない通常の乗用車に分乗して、乙山居室に臨場した。
(2) 府中野警部は、乙山居室の玄関前にて、備付のインターホンを押し、ドアを何回かノックすると、中から「誰、何の用。」との返答があったので、中野警部が「警察です。捜索に来ました。ドアを開けて下さい。」と言った。そうすると、原告乙山は、間もなく、ドアチェーンを掛けた状態でドアを開けた。
中野警部は、本件令状1をドアの隙間から原告乙山に見えるように掲げて、「警察です。捜索に来ました。ドアチェーンを外してドアを開けて下さい。」などと言ったところ、原告乙山は「分かりました。」などと言ってドアを閉めた。
しかし、しばらく待ってもドアは開けられずに施錠された状態であったので、中野警部が再度インターホンを鳴らし、ドアをノックしたところ、原告乙山は、再度ドアチェーンがかかった状態でドアを開けたので、中野警部は、原告乙山に対し、ドアチェーンを外さないと、ドアチェーンを切断することになる旨を伝えた。
そうすると、原告乙山が再度ドアを閉めようとしたので、中野警部は、再びドアを閉められて施錠されると捜索差押の実施に困難が生じると考え、ドアを強く引いたところ、ドアチェーンが外れてドアが開いた。
なお、中野警部が最初にインターホンで来意を告げてからドアが開くまでには約一〇分間を要した。
(3) そこで、中野警部は、乙山居室の玄関に立っていた原告乙山に対し、本件令状1を再度示し、原告乙山は、その内容を確認した。
(4) その後、中野警部は、本件令状1に基づき、乙山居室に在室したD、B及び乙山を立会人として、乙山居室及び原告乙山、D、Bの身体に対する捜索を実施した上で本件押収物件1を差し押さえた。
(5) 本件捜索差押1を実施している間、本件押収物件1中のパソコンは、電源が入っておらず、中野警部は、フロッピーディスク及びパソコン本体内部の電磁的記録の内容を確認しないまま、これらを差し押さえた。
(二) 本件捜索差押2及び本件検証の状況
〔証拠略〕からすれば、次の事実が認められる。
(1) 山下警部補及び小松川署員六名は、平成八年一一月一九日午前九時二〇分ころ、C居室に臨場し、小松川署員は、C居室の裏手に三名、玄関前に四名ほど分かれて、待機した。
(2) 山下警部補が、C居室の玄関前において、ドアをノックしたり、チャイムを押したりしながら、ドア越しに自らが警察官であって捜索をするために来たからドアを開けるように言ったところ、C居室に居住していた原告甲野は、分かりましたなどと答え、ドアチェーンをかけた状態でドアを開けた。
山下警部補は、ドアの隙間から本件令状2及び3を示して、「捜索差押許可状及び検証許可状が出ているから、ドアを開けるように。」などと言い、また、小松川署員が、ドアを開けなければドアを破壊することもある旨の発言をしたところ、原告甲野はいったんドアを閉めた。
しかし、そのままドアが施錠されてしまったので、山下警部補は、チャイムを鳴らし、ドアをノックしてドアを早く開けるよう言ったところ、原告甲野がドアチェーンを外してドアを開けた。
(3) このとき、原告甲野は、テープレコーダー及びカメラを持っていたので、山下警部補は、録音する必要はないから録音は止めるように言ったところ、原告甲野は、右テープレコーダーを近くにあった小机に置いた。
その後、山下警部補は、本件令状2に基づいてC居室の捜索及び本件令状3に基づき本件検証を実施し、最終的に本件押収物件2を差し押さえた。
本件捜索差押2が実施される間、本件押収物件2中のパソコンには、電源が入っていなかったが、山下警部補は、フロッピーディスク及びパソコン本体内部の電磁的記録の内容を確認しないまま、これを差し押さえた。
(三)(1) ところで、原告乙山は、本件捜索差押1の状況に関して、その本人尋問において、中野警部が玄関のドアを強く引っ張ったためにドアチェーンのレール部分が拡がり壊れてしまったと供述する。
しかし、証人中野良一は、その証人尋問において、ドアが開いた後、ドアチェーン及びドアチェーンのレール部分を確認したが異常は認められなかった旨供述しており、原告乙山の供述だけでは、その供述どおりの事実が存在したことを認めるには十分ではない。
(2) また、原告甲野は、本件捜索差押2の過程において、<1>カメラ及びテープレコーダーを手に持ち、ドアを開けたところ、数人の小松川署員につかみかかられ、カメラ及びテープレコーダーを奪われそうになり、羽交い締めにされ、膝蹴りを加えられ、顔を平手で殴られるなどの暴行を受けた、<2>身長一六八センチメートルほどで髪型はオールバックで、銀縁の四角い眼鏡をし、紺色のジャンパーを着てジーンズをはいた小松川署員(以下「銀縁の眼鏡の署員」という。)から、指をねじ上げられ、顎を顔がぐらつくほど殴られたり、胸を突き飛ばされて、「町を歩くときは気を付けろ。」などと脅かされ、その後も暴力を振るうかのような態度を示された、<3>右銀縁の眼鏡の署員は、指紋の提出を断った原告に対し、原告の目の前の壁を殴りつけるなどしたなどと主張し、原告甲野は、その本人尋問において、右主張に沿う供述をする。
しかし、右供述のほかに、原告甲野が本件捜索差押2の間において負傷した事実を認めるに足りる証拠はなく、右各事実のいずれについても山下警部補がその証人尋問において明確に否定していることなどからすれば、原告甲野の本人尋問における供述のみから同原告の右主張を認めることは困難である。
2(一) 原告らは、別紙二記載の差し押さえるべき物に「パソコン本体」との記載がないのに、パソコン本体を差し押さえることは許されないと主張するが、一般にパソコンは、一般に「パソコン本体」と呼ばれる演算記憶装置が格納された部分だけでは機能せず、少なくとも、キーボード、ディスプレイ等の機器と一体として初めてパソコン本来の機能を果たすものであることを考えると、本件のように「光ディスク」、「フロッピーディスク」、「外部記憶媒体(フロッピーディスク、CD―ROM、MO、PD、リムーバブルディスク等)」と並んで列挙された「パソコン周辺機器(通信機器及び各種ケーブルを含む)」との表現の中には、いわゆる「パソコン本体」と呼ばれる演算記憶装置が格納された部分も含まれるものと理解することが自然であるから、右原告らの主張は採用できない。
(二) さらに、原告らは、本件押収物件1及び2には、フロッピーディスク及びパソコン本体が含まれているところ、右物件の押収は、その内容を確認することなくされたから、関連性を欠く物の押収である上、フロッピーディスク及びパソコン本体内に記録された電磁的情報をコピーするといった方法によらずに、右フロッピーディスク及びパソコン本体自体を差し押さえたものであって、その方法も合理的かつ相当な捜査方法であるということはできないから、違法である旨主張する。
しかし、令状により差し押さえようとするパソコン、フロッピーディスク等の内容をその場で確認すると記録された情報が損壊される危険がある場合には、そのほかの事情に照らして、被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められる限り、実際にそのような情報が記録されているかをその場で確認作業をしないまま、これらを差し押さえることも許されるものと解すべきである。
本件では、乙山居室及びC居室は、ともに本件被疑事実に関連する証拠物がある蓋然性があり、捜査差押をする必要があると合理的に判断される場所であったことは、前記認定のとおりであり、〔証拠略〕からすれば、中野警部及び山下警部補は、本件捜索差押1及び2の当時、オウム真理教団が作成したパソコンには、電源を入れると内部の電磁的記録が壊れてしまったり、右パソコンでフロッピーディスク内の電磁的記録を読み取らせようとするとそのフロッピーディスク内の電磁的記録が壊れてしまうものがあるとの情報を得ていたこと、本件捜索差押1及び2が実施された際、通常のパソコンの操作に詳しい小松川署員をもってしても、差押えに係るパソコンの操作方法は分からなかったことが認められる。
したがって、本件捜索差押1及び2においては、本件被疑事件に関する情報が実際に記録されているかをその場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があったというべきであるから、中野警部及び山下警部補がそれぞれ本件押収物件1及び2中のフロッピーディスク及びパソコン内の電磁的記録の内容を確認しないまま差し押さえたに違法はないというべきである。
3 さらに、原告らは、本件令状請求1ないし3、本件捜索差押1及び2並びに本件検証は、いずれも別件捜査、オウム真理教信者に対する弾圧等を目的としたものであると主張するが、被告東京都が右原告ら主張にかかるような目的を有していたと認めるに足りる証拠はない。
また、前記のとおり、原告乙山は、本件押収物件1中のパソコン本体が本件捜索差押1により壊れたと主張し、原告甲野は、本件押収物件2中のパソコン本体が本件捜索差押2の後、いわゆるコンピユーターウィルスに感染した旨主張し、それぞれ、その本人尋問において右主張に沿う供述をするが、右原告らの供述のみをもって、その主張にかかる事実をにわかに認めることはできず、したがって、右原告ら主張の各事実から、本件捜索差押1及び2が違法であるということもできない。
4 したがって、本件令状請求1ないし3、本件捜索差押1及び2並びに本件検証について、原告らが主張する違法は認められない。
三 争点3について
1 裁判官がその権限の行使として行った捜索差押許可状又は検証許可状の発付行為が違法として国家賠償法一条一項の適用があるのは、単に右発付につき刑事訴訟法上の救済方法によって是正されるべき瑕疵が存在するだけでは足りず、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情がある場合に限られると解するのが相当である。
しかし、本件では、既に判断したところから明らかなように、捜索差押許可状、検証許可状を発布する要件である本件被疑事件の嫌疑のほか、本件令状1及び2については、証拠の存在する蓋然性及び捜索差押の必要性が、本件令状3については、検証の必要性が、それぞれ認められたものであるから、これらの令状の審査を担当した裁判官に右のような特別の事情を認めることができないことは明らかである。
2 したがって、右担当裁判官が本件令状1ないし3を発布したことにつき、国家賠償法一条一項を適用する余地はない。
四 結論
以上のとおり、原告らの被告らに対する本件各請求は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がないからこれを棄却すべきである。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市村陽典 裁判官 長野勝也 内野宗揮)